在宅クリニックの仕事でイメージしやすいのは、日勤帯の患者訪問です。しかしながら、在宅クリニックは夜が長いのです。夜の体制をどのように敷くかで、職員の採用や物件の選定の方針が変わってきます。作る前からしっかりとイメージしましょう。
以下、書き起こしです。
今日は、夜間往診体制の在り方でクリニックの形が決まってきますよ、という話をしたいと思います。
主に、今からクリニックを開業されようとしている先生方とか、在宅の部門をクリニック内で立ち上げようとされている先生方に対してのお話になります。
クリニックを、特に在宅の分野で運営するにあたって、やはり院長先生一人で事業をやるわけではありませんので、人をそれなりの数で雇っていく必要があります。
最初は院長先生と事務員一人とか、そういう小規模で開業される方もいらっしゃるとは思いますけれども、多くの先生方は最初から数名スタッフを雇って、開業されるのではないかと思います。
在宅のクリニックにおいて、お昼の業務は非常にイメージがつきやすいと思うんです。院長先生とスタッフで施設、あるいは個人宅に行って、一日十名から数十名の患者さんの診察を行って、処方箋出して、クリニックに帰ってくるという流れは、お昼の診療のイメージが非常につきやすいと思うんです。
しかし実際のところ、在宅クリニックの形を決めるのは、夜間往診体制をどのように運用していくか、ということでクリニックの人材の配置とか採用計画、それからどこにクリニックを設置するのか、クリニックの箱を、その診療所と当直室とかそういった物件を、どこにどれぐらい配置するのか、駅から何分ぐらいの位置に置くのか、などの細々したことが夜間往診体制のあり方で決まってくるというお話です。
この、夜間往診体制がなぜクリニックの形を決めるのか、ということについて、5つポイントをお話ししたいと思います。
まず一つ目。
夜間往診体制を何名の医師で回すことになるのか、ということで人材の、医師のリクルートのあり方が変わってきます。
これは患者さんが少ないうちは院長先生一人で夜を守る、あるいは患者さんが増えてからも院長先生一人で守るという風に決められてる先生もいますし、院長先生がご年齢などにもよりますけれども、自分一人では体を壊すリスクが高まるだろうと判断をされれば、毎晩非常勤の先生を雇って、夜間往診体制を運用する、あるいは土日だけでも非常勤の先生を雇って夜間往診体制を維持する、といったような計画をする必要があります。
まず院長先生だけでやるのか、あるいは院長先生とあと一名か二名の常勤医の先生だけでやるのか、それとも非常勤の先生を多数雇って運用するのかといったことで、医師の人材のリクルートのあり方が変わるでしょうし、非常勤の先生を雇うのであれば、あらかじめ非常勤の先生が困らないように、このクリニックではこの病気に対してはこういった治療する、というクリニックの中でのスタンダードを細かく決めておく必要があると思います。
病院で言うところのクリニカルパスを整備していく必要があると思います。
次に夜間往診体制において、医師の診療をサポートするのは誰が担うのか、どういった職種の人が担うのか、というのがあります。
これが大きく分けると、看護師か事務員か、ということになります。
少しまれなクリニックとしては、医師一人で当直をさせてるところがあります。電話受けから車の運転まで全て医師一人でやってるところがありますけれども、これは患者さんが少ない場合はそういった運用もできるとは思いますけれども、ちょっとまれなのでこれは考えない方がいいと思います。
看護師なのか事務職なのか、といったことで、診療のサポートをどちらか担ってもらう必要があるわけですけれども、夜間当直というのは普通の日勤と違って8時間9時間の労働ではなくて、一晩当直するわけですから、16時間勤務とか17時間勤務になるわけです。
あるいはその翌日までぶっ通しで仕事をするようなことがありますので、やはり女性はその当直業務断る確率が高くて、看護師で夜間当直をさせるのであれば、ナースマンを多く雇っておく必要があるだろうし、逆に事務職に当直をさせるのであれば、事務職の中に、ちょうど働き盛りの男性を多数雇っておく必要があるだろうと思います。
その看護師であれば基本的には医療的なことの解釈、カルテのに書いてあること解釈などもできて、患者さんとか施設からの問い合わせに対して看護師が質問に答えれば済む、医師に電話をつなぐ必要ないことも多いですが、事務職が当直する場合は、些細なことでも医師に一回確認をしてコールバックをするなり、医師から直接電話を返させるなりなどといった仕組みが、夜間の電話受けの体制の仕組みもここで変わってくるということになります。
事務職を当直させる場合には、ある程度の医療的な知識を事務職にもつけさせておく訓練をしておく必要があるだろうと思います。
次に、電話受けを誰がするのかということです。
基本的に医師が当直の電話を持っていることは少なくて、まずファーストコールは看護師や事務職が受けることがほとんどですが、その当直をしてる看護師や事務職が、必ずしも電話は受けなくていいということです。
大規模なクリニック、システマチックなクリニックでは、近年ではコールセンターを置いて、当直者とは別に電話を持ってる人がいて、その人が御用聞きをして、診療の必要性あるいは事務的な連絡と診察の依頼の振り分けなどを行っているわけです。
夜間のコールの数が多いと、やはり診療のサポートをする看護師とか事務職は非常に体力的に疲れますので、こういった電話受けの人員を別に配置しておくことで、当然往診とか電話の再診などがあれば、きちんと診察の報酬は得ることができるわけですから、こういったコールセンターを設置するための費用も賄えるということですので、電話を受けをするのは誰かと言ったことをしっかり考えて、医師や診療のサポートする職員の体力的な負荷についても、細目に目を配っていく必要が院長先生にはあるだろうと思います。
当然、この電話受けを誰がするのかといった問題も、事務職や看護師をどれくらい雇うのかといったような、人員の配置の面に大きな影響を及ぼします。
次に四つ目に、当直室をどこに置くのかという問題です。
クリニックの中にきちんとスペースを置ければいいんですけれども、必ずしもそうとは限らなくて、在宅のクリニックは基本的に狭いところに間借りしていることが多いですので、中に当直室は置けないことが多くて、近隣のアパートかマンションに部屋を借りて当直室を作ってるところが多いように思います。
それから常識的な範囲でクリニックの近くであれば、当直室を、非常勤の医師が夕方に常勤先の仕事が終わってから来やすいように、クリニックより少し駅近に当直室を置いているようなクリニックもあります。
こういったことを、結構多くのクリニックがやっていて、常識的な範囲であればクリニックから少しだけ離れた位置に当直室を置くということも認められるし、その方が効率が良いということがありますので、そういったことも検討されると良いのではないかなと思います。
特に非常勤の先生を何名か雇って夜間往診体制を回そうとされてる先生は、是非検討していただきたいと思います。
それから5つ目です。
夜間帯のはじめに何件か往診をするというアイデアが夜間往診体制を維持するために役に立つ、と以前に動画を撮って説明をしたことがあります。
夜間往診体制がなかなか赤字が大きくて、どうしても体力が厳しいんだけども、院長先生一人で切り盛りされているところも結構あります。しかし夜間帯のはじめに、その往診を、あまり急ぎはしないけれども、毎日診察に行った方がいいような重症の患者さんを固めておいて、診察に行くことで、夜間に来ていただくの非常勤の先生にも診察は何名かやってもらって、きちんと診療報酬を発生させた上で、夜間往診体制を維持するということを実行されているクリニックもいくつか見てきましたので、そういったことも検討されてはいかがかと思います。
必ずしも過剰な診療というわけではなくて、むしろ在宅における問題としては、在宅とか他のクリニックレベルの診療においては、患者の診察が手薄であると言ったことの方が、過剰診療診療よりもむしろ問題になっていますので、きちんと重症の患者さんをこまめに診察に行くということは、むしろ怒られることではなくて、褒められるべき事だと思います。
今回は少し長くなりましたけれども、夜間往診体制のあり方でクリニックの形が決まるということで、特に夜間往診体制のどういったポイントでクリニックの形が決まっているのかということを、大きく5つに分けてお話をしました。
これから開業されようとしている先生方、それからクリニックの中で在宅部門を立ち上げようとされている先生方の参考になりましたら幸いです。